寺島実郎監修リレー講座
第1回 10月8日 2009年前半という時代の総括 -世界の構造転換とは何か?
寺島実郎 多摩大学学長・(財)日本総合研究所会長 (株)三井物産戦略研究所会長
大型台風のため休講
第2回 10月15日 今、朝鮮半島をどう考えるか
金 美徳 多摩大学客員教授
リレー講座は、先週が初回だったが、大型台風のために休講となった。今日は、まず初回を担当する予定だった寺島学長のビデオによる挨拶と今回のシリーズの先生たちの紹介、講座の狙いなどが10分ほどあった。
今回は、「今、朝鮮半島をどう考えるか」というテーマで、多摩大客員教授の金正徳(キム7ミドク)先生の興味深い講義。
以下、北朝鮮に関する情報に特化して記載する。
- 北朝鮮は鉱物資源(レアメタル)が豊富。推定6兆ドル(534兆円)
- 北朝鮮の貿易は、中国が半分。以下、韓国、インド、ブラジル、タイ、ベネズエラ、ロシア、、。
- 北朝鮮経済改革(02年7月)は、大きな矛盾(経済改革したいが対外開放したくない)を孕みながら少しづつ進んでいる(鉱物資源。水産資源、労働力)。
- 北朝鮮の中国への本音・不満。中国の援助が減った。高句麗は中国とする領土問題。朝鮮戦争で中国軍は北朝鮮のために戦わなかった。中国の修正主義。韓中国交正常化。中朝貿易では中国から粗悪品しか入ってこない。この不満のはけ口をロシアとの関係強化に向ける。
- 中国の本音。北朝鮮が崩壊するにしろ南北統一するにしろ、米軍が北朝鮮に入ってくるのは困る。現段階では北朝鮮問題をフリーズにしておくのが得策。
- 26歳の金正雲(キム・ジョンウン)を改革開放路線に向かわせるための外交が必要。ソフトランディングさせられない場合は、軍事紛争の「恐れ。崩壊時には100兆円のコスト負担と数百万人の難民発生。
- 北朝鮮が改革開放に向かえば米朝、日中の国交正常化の可能性が高まり、その延長線上に南北統一の輪郭が現れる。
- 南北統一の方法論は4段階統一論が通説。第一段階:朝鮮半島の平和体制の構築。第二段階:南北経済共同体。第三段階:二のつの政府による南北れwんごう。第四段階:南北合州国。
- 南北統一した場合、2050年には世界8位の経済大国(ゴールドマン・サックス推計)。08年韓国GDPの7倍以上。
- 北朝鮮崩壊シナリオ。指導者失脚時30万人、体制崩壊時200万人の難民。日本へは数万人。(韓国政府9
- 日本の課題。
- 日中韓3国間経済連携と中韓ロ朝2国間経済連携のバランスを図る
- 朝鮮半島の平和のために積極的に関与する日朝の信頼醸成なくして、朝鮮半島と北東アジアの平和はあり得ない
- 北朝鮮を性善説や性悪説でなく、戦略的(日本の国益)にとらえる
- 北東アジアを「覇権・軍事戦略の対象」から「平和・繁栄の象徴」に転換するためのグランドデザインを描く
金先生の金日成大学での3年間に及ぶ講義などの経験によれば、学生は極めて真面目に勉強するし(居眠りはいない)、研究者や労働党幹部も経済大国になった日本に興味津々だそうだ。日本の居酒屋での風景は日本とまったく同じだそうだ。
(多摩大学教授 久恒啓一ブログ日誌「今日も生涯の一日なり」より)
第3回 10月22日 中国政治・経済・外交の最新動向
沈 才彬 多摩大学教授・大学院教授
- デトロイトや東京のモーターショーは失敗だが、上海のモーターショーは大成功。
- スイスのダボス会議は失敗したが、海南島のアジア・フォーラムは大成功。
- G2(ブレジンスキーの米中二大国論)、チャイナメリカ(ファガーソン)
- 中国のトップ交代5回のうち平和交代は江沢民から胡錦濤への平和交代のみ。ポスト胡錦濤(総書記)は習金近平(国家副主席・56歳・6位)、首相候補は李克強か王岐山か。
- 中国GDP。第三四半期8.9%。第四四半期は9%以上になるだろう。世界最大のエンジン。自動車・不動産・株式は活況。
- 2010年の上海万博、広州のアジア大会。9%成長は続く。これが日本経済の景気回復に影響する。
- 3つの米中逆転。1.新車販売台数が米中逆転。2.日本の輸出に占める中国の割合が米を超えた。3.日本への観光客数が米国を超えた。
- 中国は一人当たりGDPは33000ドルとなり、モータリゼーションの時代に入る。自動車普及率は、米80%。日60%。中5%。
- 日本の9月の貿易黒字は昨年の4.7倍と急増。中国向け輸出の増加。
- 日本企業のとるべき戦略。1.アメリカ中心から新興国(含む中国)中心へ2.中国は「工場」から「市場」へ。3.日本の技術力・ブランド力を活かせ
- ビジネスリスク7つの不安。農民暴動。民族紛争。腐敗汚職。生産過剰。環境汚染。政権交代(2012年)。民主主義体制への移行。
- 中国外交。米中摩擦。日本は、「親米睦中」を。
(多摩大学教授 久恒啓一ブログ日誌「今日も生涯の一日なり」より)
第4回 10月29日 イラクを巡る国際政治情勢
酒井 啓子 東京外国語大学大学院教授
本日のリレー講座の講師は、イラク問題の第一人者である東京外国語大学の酒井啓子教授。
- イラク戦争中の米軍死者数は138人。戦後の死者数は4677人弱。戦後の方が深刻。
- イラク民間人の死者数は、06年10月報告で65万人以上。
- 今、国内はおさまってきている。
- イラク難民は、海外250万人以上。国内200万人。イラクの人口は2500万人。10人に一人が難民!
- イラク戦の原因。イラクのサダムフセインがとにかく「アブナイ奴」と思っていたこと。イラクを民主的な国に。
- 戦後にどうしてこんなに悪くなったのか?米国の対イラク復興政策の大失敗。
- 楽観論で、戦後復興の部隊を投入しなかった。戦闘用兵士がそのまま駐留した。
- 米国内での派閥対立。国防総省対国務省、ネオコン対リベラル。
- イラクに関する知識の無さ o 宗派対立の激化(宗派、民族に応じた役職の配分など米国が持ち込んだ)
- 外国から「反米」テロリストが流入
- イスラム主義勢力の台頭
- クルド民族の自治問題。イラク北部に200万人。トルコ、イラン、シリアなどをあわせると2000-3000万人。石油収入を巡る中央と地方の対立。
- 2010年1月のイラク議会選挙い向けて、各勢力の政治抗争が激化している。
(多摩大学教授 久恒啓一ブログ日誌「今日も生涯の一日なり」より)
第5回 11月5日 時代を深く考えるということ - 『全体知』とは何か?
寺島 実郎 多摩大学学長・(財)日本総合研究所会長 (株)三井物産戦略研究所会長
本日のリレー講座は、寺島学長の講義。
- 09年1月ー9月の日本貿易構造は、米国13.5%(1970年27.4%、04年は18.6%)。中国20.5%、大中華圏30.6%、アジア49.4%。
- グレーターチャイナ(大中華圏)。国民党の馬総統も関心。陸の中国(建国60周年・天安門20周年)と海の中国(香港、台湾、シンガポール)。ネットワーク的発展(相互補完。域内比率は50%へ)
- 日本海物流の時代。中央自動車道と関越自動車道が八王子でつながる。間もなく東名自動車道とも。新潟へ、。そして釜山へ。太平洋側と日本海側がつなぐことが重要。釜山トランスシップ。四国も。仙台も。モノの動きが変わってきている。
- 日米安保は冷戦時代には有効だった。戦後65年経ったのに外国軍が駐留しているはおかしい。常識に還ろう!ドイツは米軍基地を93年に圧縮、地位協定も改定。日本の90年代は宮沢政権以来短命内閣で日米関係の見直しはなかったまま、準備不足のまま小泉政権でグローバリズムに乗ってしまった。
- 9・11以降の「しかたがないじゃないかシンドローム」。
- この8年間で米軍兵士はイラクで4339人、アフガンで822人、計5161人が死亡。5000人のアーリントンの墓地のイメージ。イラク人の死者は10万人から18万人。
- 「老人が戦争を起こして、若者が死ぬ」
- アフガンは、「オバマのベトナム」になる可能性。泥沼。カルザイ政権に正統性はあるのか。日本は2000億円を突っ込んできた。
- アフガン復興の仕組みの再構築が必要だ。
- オバマは第二のFDR(フランクリン・ルーズベルト)か、第二のカーターか?
- 4700万人のアメリカ人が健康保険に入っていない。オバマは健康保険制度をやろうとしているが、それは社会主義だとして反対が多い。
- アメリカは、天才とホームレスの国である。高い能力のある人には楽しいが、普通の人以下ならホームレスにもなりかねない国
- 日本は中流幻想が崩れてきて、貧困率は15.7%。今回の政権交代には、格差と貧困の問題が横たわっている。
- 雇用者5539万人のうち、非正規雇用者1760万人。3人に一人は非正規雇用者
- 非正規雇用者のうち、年収200万円以下は74%の1305万人。
- 自営業の年収200万円以下を加えると、労働人口6376万人のうち、年収200万円以下は2196万人。3人に一人は200万円以下。
- 年収200万円とは、時給1000円のコンビニのレジ、居酒屋の店員で、いくら働いても超えないレベル。
- IT化によって、仕事の中身が平準化され(バーコードなど)誰がやっても同じ仕事になってきている。
- グローバル化。途上国は時給100円ということで、時給はアップしていかない。
- 大リーガーに代表されるような「余人を持って代え難い」能力には大きな勝ちがつく。
- この流れは続いていく
- RFID(MITが開発中)という新しい技術革新は、すべての賞品にチップが組み込まれ、レジが要らなくなる。そういう時代がすぐくる。そうなると時給1000円の仕事もなくなる。
- こういう時代には、時間を切り売りする仕事(生活)と尊敬される仕事(NPO/NGO)のダブルジョブなど、仕事と生活を柔らかく設計せねばならない。
(多摩大学教授 久恒啓一ブログ日誌「今日も生涯の一日なり」より)
第6回 11月19日 21世紀は陸と海の戦い - 近代の終わりと近代資本主義の行方
水野 和夫 三菱UFJ証券株式会社チーフエコノミスト
本日のリレー講座は、水野和夫氏(三菱UFJ証券チーフエコノミスト)の「21世紀は陸と海のたたかい」。
雄大なスケールの話だった。 総括すると、、、
「世界の成長は望めない。資源高で大変なことになる。日本は東アジア共同体構想に活路を。来年は二番底になる。」
- 世界史は海と陸の戦いの歴史である
- ローマからスペインまでの陸の時代。イギリスからアメリカまでの海の時代。そして今は陸の時代(EU,ロシア、中国)への転換期。象徴的事件は、9・11,ソマリアの海賊、リーマンショック。
- 16世紀から1974年までが海の時代。1974年からが陸の時代。
- 日本の課題。1つは「成長戦略」。陸の国の仲間入り(東アジア共同体-ユーラシア共同体へ)首都は九州、ハブ空港。もう一つは「脱成長戦略」。地球の持続性を重視した視点。
- 課題。財政再建、金融政策(金利正常化)、社会政策(自殺はゼロ社会)
- 海の資本帝国(成長がすべてを解決する時代)の終焉。近代の特徴=もっと先へ、より未知なるもの、より学術的に。
- 21世紀のグローバル化=辺境の消滅により成長の基盤が崩壊
- 安価な資源を無尽蔵に消費する時代の終焉(2030年に石油価格は197ドルになる。資源高)
- 先進国経済は1974年に物的拡大面でピークを迎えた(先進国の粗鋼消費量は1974年がピーク)
- 過去のグローバル化=15%のグローバル化。今回のグローバル化=100%のグローバル化。
- 日本。原油高=95年以降、変動費の増加(50兆円)が売上高の増加(43.6兆円)を上まわる。中小企業・非製造業は売り上げの減少(97年をピークに年率1.4%減少)
- 脱化石燃料社会実現なくして所得増なし
- 東アジア共同体によってアジアでのシェアを拡大
- 実質賃金は97年をピークに年率0.9%のペースで下落。
- 60日経済
- 資源価格の上昇によって向こう30年間は大変な時代になる
- 95年はバーレル17ドル、08年は99ドル。10ドル上昇すると3兆円が流出するから、86兆円が流出。
- 二番底はくるか?原油価格は9ヶ月遅れでコストに転嫁。今は40ドル時代のコストだが、来夏は76ドルのコストになる。輸出はアメリカの減税効果がなくなる。今回のGDP1.2%成長のうち0.9%は輸出だった。アメリカのの追加減税があるか。結論としては、二番底はある。
- 2010年度は、景気後退
(多摩大学教授 久恒啓一ブログ日誌「今日も生涯の一日なり」より)
第7回 11月26日 オバマは世界を変えるのか
藤原 帰一 東京大学法学政治学研究科教授
本日のリレー講座は、東大の藤原帰一教授の「オバマは世界を変えるのか」。
- 都会の民主党と田舎の共和党。東部の民主党と南部の共和党。マスメディアの民主党とCNN・FoxNews Chの共和党
- 04年の大統領選でオバマ登場。「青いアメリカ(民主)もない。赤いアメリカ(共和)もない。あるのはアメリカ合衆国だ」
- アメリカの大統領は王に代わる統合の象徴。ワシントン、リンカーン、F・ルーズベルト、、
- オバマはキリスト(救世主)のイメージ。浅黒い肌、、、。
- オバマは民主党の支持層の5割をとって勝ったが、共和党の支持基盤を崩してはいない。
- 2010年の中間選挙では民主党は大幅に後退するだろう。(日本の参院選に似ている)。
- 経済が悪いと与党が票を減らす。2008年の大統領選もそうだった。
- 経済指標とは、GDP成長率・物価・雇用(失業率)。特に物価と失業率は身近な指標。失業率は遅れて出る指標で今から影響が出てくる。
- 経済がよくなる可能性は少ないから中間選挙は民主党は大幅後退。上下議会で野党が優勢になる。
- オバマ政権は一期限りの政権になるだろう
- 内政。現在の争点は医療制度改革。これでオバマの支持率は20%ダウン。これが成立すると保険業界は壊滅する。
- この法案は骨抜きになって妥協の産物(オバマの裏切り)として上院も承認するだろう。内政は厳しい。
- 外交。ブッシュの負の遺産解消に取り組み、オバマは歴史に残る大統領になるだろう。
- ブッシュはロシア、イスラム、ヨーロッパとの関係を悪化させた。
- オバマのプラハ演説(核軍縮交渉の再開。4000-6000発の核弾頭を1700発へ)は西欧からは熱狂をもって迎えられた。英仏は300発。これに中国を誘い込めるか。ロシアの核の廃棄はアメリカがやる。
- インド、パキスタン、イスラム、北朝鮮、イラン。北朝鮮の核問題はイランよりはやくけりがつく(これからはつくらないが、これまでの核の廃棄は譲らない)
- ノーベル平和賞はアメリカ国内に敵をつくった。
- 中東和平。カイロ演説はイスラムから支持。とるべき道は二つ。急進派ハマスとメタニエフ政権の両者を招いた会議。あるいは多国間交渉。
- アフガンは最大のアキレス腱。ブッシュは意味もなく戦線を拡大した。アフガンには「統治」(政府)がない。身捨てられた状態。イラクにかまけている間にアフガンはタリバンの支配になり反米になってしまった。コストが大きい。
- オバマの日本での演説、シンガポールでの演説もよかったが、アフガンに関する方針を示せなかった
- 欧州とロシアでは記憶される大統領になるだろう。アジアは悪くない。
- しかし、北朝鮮、イラン(ロシアを誘い込まなければだめ)、アフガンに関しては、有効な手を打てていない。
- アフガンに関しては、鳩山政権は早く方針を出した方がよかった。警察力の不足に踏み込むべきだ。
- 日本はイスラムに信用がある。アジアのイスラムのマレーシア、インドネシアにも友好的。役割は大きい。
- 普天間は情けない論争になっている。
(多摩大学教授 久恒啓一ブログ日誌「今日も生涯の一日なり」より)
第8回 12月3日 変われるか?日本の教育ー転換への処方箋ー
尾木 直樹 教育評論家・法政大学キャリアデザイン学部教授
本日のリレー講座は、教育評論家の尾木直樹さんの「変われるか?日本の教育」。
昨年もこのリレー講座に見えて感銘を与える話をしていただいた。著書は180冊。
- 政権交代で日本の教育が変わる可能性が出てきた。高校の無償化など民主党政権の教育に関する施策に期待している。
- 今まで掲示板などで「子供を大切にしよう」というメッセージを出すと、ものすごい勢いでたたかれていたが、9月以降まったく批判されなくなったのは不思議だ。
- 日本の自殺者の数はずっと増えてきたが、9月以降変化がある。9月300人減、10月300人減。まだわからないが政権交代で希望が出てきたからかも知れない。
- 自殺者の中で子供については、2007年886人、2008年972人と増えている。
- 小中高校生の暴力事件は年間6万件と増えており、特に小中学生は3年で7割増となるなど急上昇している。生徒間の暴力が急激に増えている。
- 親の雇用不安で子供にあたる、詰め込み教育の復活、競争至上原理(学力テストなど)で、子供達は我慢が続いている。
- その我慢が、ちょっとしたひとことで爆発する(地雷型)。我慢が足りないのではない。生徒は我慢しすぎているのだ。
- 出来ない子は差別されている。学力テストは失敗。
- 生徒指導は、従来のカウンセリンッグマインド方式から、ゼロトレランス方式に変わっている。寛容さがなくなり、機械的なペナルティ方式。
- 民主党の「子供は社会の宝」とうメッセージに期待している。
- OECDは、知識基盤社会・多文化共生主社会・リスク格差社会・成熟した市民社会と言っている。
- 日本の文部省は、このうち知識基盤社会の部分のみを強調しているのは問題だ。世界認識が重要。世界はアメリカのみではない。
- 学ぶことは問題解決力を身につけること。
- 教育は、国家のライフラインだ。最初に予算を確保すべきものだ。子供と親にとってはセイフティ・ネットだ。人生前半期の社会保障。
- 大学生の「便所飯」。学生食堂で一人で食べていると「友達もいない奴」と思われる。一人でいることの恐怖感がらい、いつも群れている。居場所が必要。
- 丁寧に、学生と寄り添う。
- 民主党政権で教育が変わる可能性がでてきた。声を上げよう。
- プロセスが大事だ。日本の民主主義を一歩一歩築いていこう。
前回も感じたが、具体的な教育現場の事情に精通しており、統計数字も押さえているので、説得力がある。
(多摩大学教授 久恒啓一ブログ日誌「今日も生涯の一日なり」より)
第9回 12月10日 現代日本の権力構造
佐高 信 評論家
さて、本日のリレー講座の講師は評論家の佐高信さんです。テーマは「日本の権力構造」。何回かお会いしているので始まる前にご挨拶。講義の途中で学長が到着し少し報告することがあったので間(あいだ)が抜けているが、以下、講義のポイント。
- 日本にはタブー(書けないこと)がある。
- テレビや新聞に載らないものがある。スポンサーである大企業を批判できない構造がある。
- 誰が権力を持っているのか。政治家から連載を止められたことはないが、企業(経営者)から止められたことはある。
- 「批判は簡単だ」というがそうではない。批判するのは大変です。相手は糧道を断とうとする。
- 「長谷川慶太郎・堺屋太一・竹中平蔵」路線と「城山三郎・内橋克人・佐高信」路線
- だまされることは悪である
- タブーは厳然としてあり、自分で努力しないと、本当の姿はわからない
- 「週刊金曜日」は企業スポンサーはない。読者がスポンサーだから、本当のことが載っている。
(多摩大学教授 久恒啓一ブログ日誌「今日も生涯の一日なり」より)
第10回 12月17日 世界の報道最前線に立って
岩田 公雄 読売テレビ放送株式会社 報道局解説委員長
第11回 1月7日 日本政治の課題 ー組織・人材・政策ー
佐々木 毅 学習院大学法学部教授
7日の多摩大リレー講座は仕事で講義を聴けなかったところ、NPO法人知的生産の技術研究会の八木哲郎会長がまとめたものを送っていただいた。要旨を掲載します。
多摩大リレー講座「佐々木毅」講演のまとめ
日本政治の課題―組織・人材・政策
1. 政治の主役としての政党の存在感。
日本の政党は官僚制優位体制を前提にした国会議員の集まりである。与党という言葉はその残滓、イデオロギーを基盤とする組織政党ができていない。政党が政府・官僚制から独立した組織として発達することがなく、それへの寄生的な性格が強かった。明治維新以来日本を築いてきたのは官僚と軍人であり、政治家の存在は希薄であった。坂の上の雲というドラマにも軍人と官僚が主役であるが、政治家は出てこない。
藩閥時代は政治家の存在感が大きかったが。
アングロサクソン社会が政治家が大いに活躍し、政治のウエイトが大きい。アメリカでは官僚などは出てこない。ドイツは軍人と官僚が強い、フランスも官僚制と軍隊が強い。
自民党は長期政権であることによって党員を増やした。その数は数百万とも呼ばれた。その多くは政府とそれに連なる利益・業界団体のメンバーが知らないうちに党員にさせられたり、義理で入ったりしていた。また個人後援会のメンバーは党員であった。 味方になる人を増やすことが政権の維持安定につながり、いろいろな要求を聞いて受け入れ、ギブ アンド テイクの関係を築き、支持母体を増やした。自民党だから支持するのではなく政権与党であるから支持するという関係になり、政権交代が起こりにくい構造ができていた。与党であるから与党でいられるという構造(自己増殖型構造)、ここから一党優位体制が出現する。(野党の存在価値はどこに)
しかし、一昨年のリーマンショック以来政府・官僚制の社会的・経済的権威が著しく失墜し、一党優位体制の仕組みは終わった。
政治は中の中に属する人が7割くらいいる国家が最も反映し安定する。しかし中産階級中心型の社会は格差の拡大によって失われている。これからは政治の主導体制への漸進的移行が21世紀の日本政府の基本的な動向である。さらに政党間競争をおこし、、選挙制度の改革やマニフェストの約束によって政党間を対決可能にし、政権交代可能な政党システムへ移行しなければならない。ボトムアップ型からトップダウン型へ(政治のリーダーシップの可視化)、
日本の政党は足腰の弱さが拡大し、支持率主導型政治への転落の可能性が増しているが、支持率さえ上げていれば政治の役割を果たしたとは言えない。少々の支持率が変動しても堪える政治が必要である。今、民主党はマニフェストにこだわりすぎてそれに縛られているという人も多いし、マニフェスト違反だと怒っている人も多い。政権を担当した以上、ぐらぐらしていたら訳がわからなくなる。 政権交代は政党の組織問題の解決にただちにつながるものではない。対策と結び付いた組織化の可能性、いかに多くの人を支持者に組織するかが重要である。昔自民党は医師会、遺族会、宗教団体などを組織して支持団体にしていたが、小泉政権時代にそれらが失われてしまった。民主党はたくさんの人たちを支持者に組織することによって支持率主導型政治に対する政党の抵抗力を醸成することができる。これなしには長期的な視点に基く政策は困難である。
2 政治と人材
政治家には政党に所属して議員になるタイプもあれば知事とか首長のように直接選挙で選ばれることを求めるタイプもある。こういうタイプは権限が大きいが、個人が負担を背負いこむ。政党政治は集団で統治するので、多様な人材の有効活用を念頭においた政治のスタイルを作らねばならない。選挙に強いことは必要条件であっても、重要な役目を果たすためには十分条件ではない。党内がバラバラであっては困る。トップの指導力が強いのはイギリスで少数の幹部がすべて仕切り、あとはバックベンチャーである。人材はあまりにも同じタイプばかりだと硬直する。人材には得手不得手があって選挙に強い人、国会運営に長けた人、党内運営のうまい人、など様々な能力が必要である。
トップは政党にとっていわば最大の商品である。それが全体ににじみ出てくる。人材育成にとって素質と訓練、経験の3つが不可欠である。政権党は政権を取っている長い間に党員をいろいろな役職につかせて訓練し経験を積ませる上で人材の育成と選抜の機会に恵まれている。自民党待っている人たちを当選回数に従って大臣に登用したりして経験をつませた。しかし素質が大事で素質を欠いた人はマイナスになる。政治家はなってみないとわからないことが多い。有権者にむかってよくしゃべることが政治家の能力のように思われるが、本当に有権者に信頼されるには相手の話をよく聞くことが政治家の評価になる。3割しゃべって7割聞く。こうしてはじめて有能な政治家が育つ。小泉政権時代は民間人の起用が多かったが、これが政治家の訓練の機会を逆に奪う。民主党はこのことを考えているらしい。
組織運営と人材育成との連携について日本の政党はほとんど偶然任せ。足腰の弱さを自覚するならば議員間での組織運営と人材育成について継続的な努力がますます必要である。選挙ができることと政権を担い、統治することとの間には大きなギャップがある。政党はこれをうずめることに努力が必要である。自民党はかつて派閥に人材育成の機能を代行させていたが、派閥が消滅するにつれ、その機能が衰弱してしまい、それに変わる仕組みを実現できなかった。(統治ができるトップよりも選挙に勝てそうなトップへ)、民主党はすべてこれからであるが、膨大な数の新人議員をどう育成するか、議員の半分が若手新人である。これをどう指導し、選挙に勝てるメンバーにするかが大きな課題である。
3 政治と政策
財政の無駄を省くとともに政策方向を転換するというのが目下の内政の課題である。「コンクリートから人間へ」「昔は良かった」「格差是正」という過去の是正も大事であるが、未来を見据えてどう未来を切り開くかが大事である。自民党は20世紀型経済・働き方だったが、それはリーマンショックで確実に終わった。21世紀型社会を目指して「しのぎ」から新たなモデル作りへ、未来志向なしには国民に負担増を求めることはできない、21世紀の経済構造、社会構造をどうするか民主党はそろそろそれをはっきり示さねばならない。今の社会は20世紀型で作られており、定年制とかいうのは若い人がたくさん供給できた時代の物である。ひとことでいえば量を拡大し、それで勝負する時代だった、軍事力しかり、経済力しかり、自民党の時代はそれだった。そういう時代は終わった。
民主党の目玉は子供手当を優先的においている。それが一丁目一番地の売り物である。
政治の歴史感覚が問われる時代、財政危機は政治の危機の象徴であり、それを乗り切るのが当面の課題である。国際環境の大変動への鋭い感覚と確かな目測能力が大事である。
(多摩大学教授 久恒啓一ブログ日誌「今日も生涯の一日なり」より)
第12回 1月14日 2010年への視座 ー日本創世への構想
寺島 実郎 多摩大学学長・(財)日本総合研究所会長 (株)三井物産戦略研究所会長
寺島実郎監修リレー講座の秋学期も今日で最終回。社会人受講生の全回出席者は67名を数えた。
- COP15の衝撃。何も決まらなかった。25%削減の鳩山演説にも無反応。途上国に雑言を浴びた。
- イラクにおける米軍兵士の死者は12月31日現在で4369人。アフガンは949人。合計5318人のアメリカの若者が芯だ。
- 正統性を失いつつあるアメリカ。
- 世界を回って、日本ほど暗い雰囲気の国はなり。
- 2009年の世界経済マイナス2.2%。(米国マイナス2.5%、日本マイナス5.3%、ロシアマイナス7.9%、中国+8.5%、インド+6.6%)
- 2010年のコンセンサス(エコノミスト予測の平均)予測ではプラス2.9%。(米国+2.7%、EU+1.1%、日+1.5%、中国+9.6%、インド+7.7%、ロシア+4.1%)
- 景気回復は、財政出動と金融緩和で、再びマネーゲームが始まっているのが理由。金の行き場を探している。石油価格の上昇(2008年夏147ドル・2008年末34ドル・2009年末75ドル。乱高下)
- 09年1-11月の日本の貿易総額。米国13.6%、中国20.5%、大中華圏30.6%、アジア49.5%。
- 世界はネットワーク型で発展している。大中華圏とユニオンジャックの矢(ロンドン、ドバイ、バンガロール、シンガポール、シドニー)
- シンガポールは、大中華圏の南端でASEANとのつなぎ、ユニオンジャックの矢に位置。バーチャル国家としての先行モデルだ。。システム、ソフト、技術、医療、バイオなど、、。
- 日本。20008年の雇用者5539万人のうち年収200万円以下(ワーキングプア)は1305万人(非正規雇用者の74%)。自営業で200万円以下と正規雇用者で200万円以下420万円。これらをあわせると、200万円以下で働く人は労働人口6376万人の34%にあたる2196万人。200万は時給1000円レベル。
- 生活保護を受けている人は159万人で、平均支給は173.9万円。失業保険を受けている人は61万人で、支給は152万円。200万円の層とそれほど違わない。
- 勤労者家計の可処分所得は減り続けている。2000年は月47.3万、2008年は月44.3万、2009年1-7月は41.2万。これは年収ベースで73.2万円の減少にあたる。また企業のフリンジベネフィット(寮・社宅・保養所、、)も減少。社会にフラストレーションがたまり、政治への期待がが増加。家計への直接給付への関心が高まり政権交代へつながった。
- 新政権でみえてきたこと。公共投資マイナス18%(コンクリート)、福祉・教育プラス10%(人)。子供を誰が育てるのか。社会が育てるという合意が形成されているのか疑問だ。これによって親子関係など社会の姿も変わってくる。官から政へというが、政治家のレベルの問題がある。
- 日本。民主党政権の弱点は産業政策がないことだ。項目が並んでいるだけ。政策論(プロジェクトエンジニアリング)が大事だ。
- 日本創生のシナリオ。次世代ICT。地上デジタルは南米は日本方式を採用したが、ハードは韓国勢が席巻している。光ファイバー網は基幹インフラとして9割敷設が終わっているが、家庭への接続でみると20%台。ラストワンマイル問題。ここを国家としてすみやかにやり高度情報化社会に立ち向かう・このためNTTを核とする国策特殊会社を設立し社債発行によって電撃的に行うプロジェクトが進行(税金を使わない)。
- 小中高生に電子教科書を配付し、高度ICT人材養成への本格的な布石を打つ。全ての教科書を採用すればよい。その教科書から百科事典、専門家の意見にもとべるようにする。ランドセル姿もなくなるだろう。
- 日本はエネルギーと食料を海外に依存してきた。技術によって食糧問題(カロリーベース自給率40%)を解決していく、腐らせない、移動できるようにする、バイオ技術の応用、、株式会社農業に人材と技術を投入。食料輸入は6兆円。輸出はいつのまにか5000億円に(ドバイでも日本の刺身が食べられる)。3-4年で1兆円を越すだろう。
- エネルギー。日本は国土面積は61位。しかし領海と排他的経済水域を合わせた海洋面積では6位。海洋基本法と宇宙開発基本法は超党派議員立法で成立している。09年10月に宇宙開発戦略本部がスタート。この二つは相関がある。日立の準天頂衛星の打ち上げで正確な資源探査が可能。11カ所の海底熱水鉱床の発見。各種資源のポテンシャルあり。
- 分配の議論から、自動車以降のプロダクトサイクルに向けて構想力を持って立ち向かわなければならない。
(多摩大学教授 久恒啓一ブログ日誌「今日も生涯の一日なり」より)
(敬称略・講師名は講義日程順)