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多摩大学出版会『権威と分節』刊行

[2024年9月20日]

≪タイトル≫
『権威と分節 近現代中国の社会・教育・文化に関する断章』

≪執筆者≫水盛 涼一

≪ISBN≫978-4-89390-212-2

≪発行日≫ 2024年8月1日刊行

概要

中国とはどのような社会なのか。巨大な領域、膨大な人口をどのように統治しているのか。社会の構成要素である分節をキーワードに、都市住民なかでも若年層の視点から、印刷出版、企業統治、試験制度、官僚集団、政治宣伝、人身把握、地域振興、国際融資といった諸題材を通して多角的に分析する。

内容

本書は諸題材について具体例に基づき素描を試みた。たとえば第5章では大学入学統一試験「高考」における歴史の作問事例を挙げる。試験は前半こそ択一式問題であるが、後半には複数の記述式問題が登場する。試みに2020年7月実施試験を挙げれば「宋代史に関する国内外の学者の著作は数多く、叙述の重点はそれぞれに異なる。たとえば『儒家の統治する時代』『中国思想と宗教の奔流』『文治の隆盛と武功の退潮』といった書名には著者の時代認識が反映している。それでは、学習した知識により中国史の一時期について時代の特徴を反映し得た書名を考え、また具体的な史実を応用し論証せよ」であった。日本では諸事情により導入に失敗した全国統一試験の記述式問題であるが、中国では課題を指摘されながらも歴年実施されてきた。

続く書き下ろしの第6章では試験の周辺環境にも言及する。2023年度「高考」の出願者は1291万人(なお日本の2023年度共通テスト出願者は49万人)、中国の若年層へ多大な影響を与えるものとなっている。そのため試験実施責任者は各省の副省長が勤め、試験会場への入場には顔面認証システムを導入し、試験監督や採点者を事前に招集訓練して公平公正な業務遂行を期し、制度の動揺による社会の不安定化を可能なかぎり抑制しよう試みているのである。おりしも、1985年から国定教科書は検定教科書へ、統一試験は地方各省作問実施へと推移したが、近年になって一部教科は検定から国定へ、各省試験は統一試験へと回帰しつつある。「考を以て学を促す」の俗諺に通じるものか、2023年度高考作問の全体方針は「全面的に新時代中国特色社会主義思想を溶け込ませ、総書記の重要な講話を試験内容に入念に組み込み」「新時代中国特色社会主義思想の世界観と方法論、立場や観点や方法を把握させ、成長や成功ための思想と理論の基礎を突き固めていく」ことを目指したとする。作問、監督、採点、これらは中央の指導者が直接に担当するものではない。あくまで各分節が上意を受けて下位に伝達し、銘々が実施するものである。そこで分節は自らの意思や状況に応じて過剰忖度から職務遅滞まで種々の様態を見せ、また上位は彼らに対して人事優遇から厳重処罰まで様々な措置を採るだろう。以上例示した試験制度のほか、本書では印刷出版、企業統治、官僚集団、政治宣伝、人身把握、地域振興、国際融資といった題材から中央の意思と分節の行動を追ったものである。

序章
1.本書の視角
2.演者たちへの視座
3.本書の構成

第Ⅰ部 権威と言説
第1章 清末出版統制序説──禁書指定・自主規制・地下出版のはざまで
第2章 官僚職員録の発展と変容にみる社会変化と紐帯形成

第Ⅱ部 分節と演者
第3章 標語宣伝と出版活動──軍への学習・教育と人事査定を中心に
第4章 政党と企業の関係性および企業ガバナンス
第5章 大学入学試験制度と社会科教育──21世紀における展開と変容
第6章 統一へ向かう大学入学試験制度と教育行政の変容
第7章 高齢者福祉と社区そして網格
第8章 辺疆と開発の国際関係──広西北部湾国際港と西部陸海新通道をめぐって

あとがき

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