
多摩大学は創立二〇周年を迎えた。この節目の年に、初代学長野田一夫先生との縁で五代目の学長を引き受けることになった。心を込めて職責を果たしたいと思う。
「現代の志塾」、これが多摩大学の存立の意味を示す言葉である。明治近代化以来、多くの個性を持った大学が創り出され、歴史を重ねてきた。大学が果たす機能も、「教育の場」であり「研究の場」でもあり、役割期待も重層的になってきた。その中で、多摩大学は創立の原点に立ち「人間を育てる教育の場」としての大学を徹底して探求していきたい。つまり、教員を中心とする研究の場であるよりも、一業を成したいと志す人間の基盤能力を育てる場であることを目指したい。時代環境に対して受身で生きるのではなく、自分のテーマを発掘して挑戦しようとする学生を鍛える場であることを志したいということである。
多摩大学の創立以来の二〇年間は、世界史的に言えば「冷戦後」といわれる時代の二〇年であった。一九八九年にベルリンの壁が崩れ、一九九一年には東西冷戦において「東側」の中心にいたソ連邦が崩壊した。「イデオロギーの対立」の時代が終わり、世界は「グローバル化」といわれる時代を駆け抜けてきた。私自身はこの間、ビジネスとシンクタンク活動の現場で、時代環境の変化と向き合い、突きつけられる課題に挑戦してきた。
そうした時代が新たらしい次元の問題を露呈させ、「百年に一度の経済危機」などといわれる状況に直面している今、新たな世界秩序とその中での日本の役割を模索せざるをえない局面にある。経済活動の現場も教育の現場も、新しい時代の課題に果敢に挑戦する人間を求めているのだ。
こうした時代の「一隅を照らし」、次なる時代を支える人間を育てることこそが大学の使命であり、そのためには大学での生活を通じて、地政学的「知」と人間としての「心」、高度情報社会を生きる「技」を磨く機会を提供することが大切なのである。「外は広く、内は深い」、そのことに気付いたならば、人生は少しずつ充実した方向に向かうと確信する。
1947年北海道生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了後、三井物産入社。米国勤務等経て99年より三井物産戦略研究所所長、09年4月からは同会長。また01年より日本総合研究所理事長、06年より同会長。現在、文科省中教審委員、経産省情報セキュリティ基本問題委員会委員長、内閣官房・宇宙開発戦略本部宇宙開発戦略専門調査会座長など兼任。04年石橋湛山賞受賞。
近著は『二十世紀から何を学ぶか』(新潮選書)、『脳力のレッスンⅡ』(岩波書店)ほか。
寺島実郎監修リレー講座 「現代世界解析講座II -いま、世界の構造転換と日本のあり方を考える」
日本総合研究所: http://www.jri.or.jp/
三井物産戦略研究所 http://mitsui.mgssi.com/