多摩大・志チャンネル

第2回 多摩大学で学べる表現力

PROFILE:久恒啓一(ひさつね・けいいち)
1950年大分県生まれ。九州大学法学部卒業。日本航空を経て1997年宮城大学教授に就任。2008年より多摩大学経営情報学部の教授をつとめる。ベストセラー『図で考える人は仕事ができる』(日経新聞出版社)など図解に関する著作多数。

 

PROFILE:樋口裕一(ひぐち・ゆういち)
1951年大分県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。京都産業大学の客員教授を経て2008年から多摩大学経営情報学部の教授に。小論文および作文指導者として知られる。『頭がいい人、悪い人の話し方』(PHP研究所)『ホンモノの文章力 自分を売り込む技術』(集英社)などの著書がある。

 

【前編】図解VS小論文

社会で求められる表現力

―今回のテーマは「表現力の重要性について」です。まず久恒先生からお話しいただけますか

【久恒】30代前半の社会人に「仕事をするうえで重要なことは何ですか?」と聞くと、ほとんどの人が「コミュニケーション能力」と答えます。コミュニケーション能力とは、自分の考えを明らかにし、他人にわかりやすく伝えられる表現力のことですが、従来の学校教育はその力を磨くための科目がなかった。しかも社会に出て10年も経つのにいっこうに身につかない。それが自分たちの欠点だと話す人が多いのです。この話から導き出せるのは、高いコミュニケーション能力があれば仕事はできるということ。だから学生のうちに自分の考えをわかりやすく表現する術を身につけることが大切なのです。

【樋口】私は「受信」と「発信」という言葉を使いたいと思います。大学受験を前提とした高校までの教育は基本的に受信です。しかし社会に出たら自分から発信しなければ活躍の場は与えられません。そこで重要になるのが「話す、書く」などのコミュニケーション能力。自分の考えを他者にわかりやすく伝える表現力は、会社勤めに限らず人生全般において重要なことです。

―お二人は「図解」と「文章」という対照的な表現方法を指導されていますね

【久恒】図解を提唱するのは、ひとたび図を書けば物事の全体像をつかむことができ、それぞれの関係性もわかりやすくなるからです。今は図解も表現方法の一つとして認知されていますが、私が会社員時代に使い始めたときは画期的な技術として評判になりました。

【樋口】文章は論理的に考え、深く思索したうえで他者に説明するのに適したメディアです。文章を書くと思考力が鍛えられるので、他者に自分の考えを説明したり、相手との共通点を見つけて折り合ったりする能力も磨かれると思います。

特別な才能はいらない

―図解力を身につけるコツはありますか

【久恒】図解は先天的なセンスや才能を必要とせず、定期的な訓練をすれば誰でも身につけられる技術です。学生なら普段の生活で直面したことや教科書の内容、あるいは先生が言ったことを図解してみてはどうでしょうか。新聞の小さな記事を図解してもいいと思います。この訓練を私は「1日1図」と呼んでいるのですが(笑)毎日続ければ相当な力がつくと思います。

―文章力はどのように身につければよいでしょうか

【樋口】私は以前フランスに留学したことがあるのですが、そのときフランス人はよく「理由は三つある、第1に……」という論法を使っていると気が付いたんです。彼らは自分の意見を主張するときはとりあえず「理由は三つある」と言う。つまり型があるんですね。

私が指導する小論文講座でも型を使います。型は論理的思考の手順なので、その通りに書けば誰でも論理的な文章が書けるようになります。基本的な型は「問題提起」「意見提示」「展開」「結論」の4部構成です。

第1部で「~だろうか?」と問題提起し、第2部は「確かに……しかし」と反対意見を踏まえながら自分の意見を述べる。そして第3部で「なぜなら」と自分の意見を補強し、第4部で「したがって」と結論を出す。もちろん背景となる知識や分析力は前提ですが、小論文にも特別な才能は必要ありません。

 

【後編】文図両道のすすめ

―図解と文章にまつわる印象的なエピソードを教えていただけますか

【久恒】会社員時代、図を使って説明すると面白いように仕事が進み、ビジネスの能力が非常に高まったと実感しました。その後図解の本を出版したことがきっかけで大学教授になるチャンスも得ましたし、地域活性化の戦略を練る際にも図解が役立ちました。その経験が今の私の血肉になっています。

【樋口】私はかつて過激な文学青年で、周囲の人たちを見下し、難しい哲学の本を読んでは悦に入っていました。ところが小論文を学ぶことで自分がいかに独りよがりだったかを知ることになったんです。
自分の考えを他人にわかりやすく説明する重要性を理解し、それができるようになった頃には過激な文学青年ではなくなっていました。これは文学と決別したという意味ではなく、幅広いジャンルの文学を理解できるようになったということです。また当時は意見の相違から人と対立しがちでしたが、今は誰とでもわけへだてなく付き合えるようになったと思います。

自分と社会の接点を見つける

―普段はどのような授業をしているのでしょうか?

【久恒】社長や人事部が出している会社メッセージを図解して就職活動に役立てたり、各政党のマニフェストを比較したりする実習型の授業をしています。よく若い人は政治に無関心だと報道されますが、マニフェストを図解すると理解が深まるので、支持政党ができ、投票に行くようになります。図解で物事を深く分析すると愛着がわき、生きていくうえでの指針ができるのです。

【樋口】先日、「タレント政治家の是非」をテーマに、タレント政治家の存在と民主主義の関係を考えさせました。「大型連休分散の是非」をテーマにしたときも面白い授業になりましたね。自分と社会の接点を考えながら小論文を書くと、大きな視点で考える力がつきます。

―図解と文章はいずれも魅力的ですが、どちらを学べばいいでしょうか

【久恒】ここは「文図両道」で、両方とも学んでみればいいと思います。以前企業の採用担当者に話を聞いたときも、中途半端な知識ではなく、表現力やコミュニケーション力があり、一緒に働きたくなるような人を求めていると言っていました。文章や図が書ければ、就職活動も有利になるはずです。

【樋口】私も文章と図の両方を使いこなすからこそ、武器になると思います。

両方使えてからこその武器

―久恒先生が文章を書いたり、樋口先生が図解したりする場合はいかがですか

【久恒】私は文章を書く前に図で全体像を確認するようにしています。卒業論文を書く学生にも同じように指導します。内容があやふやなままで書き始めると失敗する恐れがあるので、文章の羅針盤として図を使うことが大事だと思います。

【樋口】私は図解が苦手なんです。この間『ヴァーグナー 西洋近代の黄昏』(春秋社)という著書に図を入れたので久恒先生にチェックしてもらったら「図が下手」と言われてしまいました(笑)もう少し勉強しないといけませんね。

―最後に、この番組を聴いている高校生へメッセージをお願いします

【久恒】社会を渡っていくのに必要なのは知識ではなく、自分の考えを表現する方法や技術です。多摩大学では表現力を磨くためのさまざまな講座を用意していますので、ぜひ一緒に成長していきましょう。

【樋口】高校生の間は興味を持っていることに思う存分チャレンジし、社会や人間に対する関心を深めてください。そして本学ではその経験をまとめる方法論をしっかりと学ぶことができます。(了)